COLUMN
生成AI研修、何から始めればいいのか
——データで見る現在地と、多くの現場がつまずく一点

INTRODUCTION
1962年生まれの私が子どもの頃、電車に乗る時は現金で切符を買い、駅員さんに渡して鋏で穴を開けてもらうことが常識でした。しかしその常識は昔話になりました。そして今、生成AIやフィジカルAIが進化しています。その結果、私たちが実践してきた仕事は、AIによって大きく役割を変えていきつつあります。しかもAIの進展を見ていると「AIの使い方」よりも「AIという“相棒”に、仕事のどこを任せるのか」に焦点を当てなければなりません。それは単に担当者だけではなく、立場としての経営者、管理職、新入社員まで、人事、経理、営業、経営戦略部門など全ての組織の課題でもあります。「これまでの常識」を疑い「これからの仕事」を創造していくためにも、講師・金子雄太郎氏と話し合いながら、研修を創り上げていきませんか。(本田勝裕)

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いま、日本の企業はどこにいるのか
「生成AIを何かやらないといけない」という空気は、もうどの会社にもあります。
ただ、実際にどこまで進んでいるのかは、思っているほど一様ではありません。
数字を並べてみます。
中小企業のAI導入率は、20.4%。(中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月)
5社に1社です。そして導入している企業のうち82.6%が生成AIを使っています。
裏を返せば、8割の中小企業は、まだ入り口にも立っていないということになります。
一方で、規模が大きくなると景色が変わります。




大企業では6割超。ただし1,000人を超える企業でも、4割弱はまだ活用していない。
「大手はもう全部やっている」というのは、思い込みです。
個人レベルではもっと急です。日本の個人の生成AI利用率は26.7%。
前年度の9.1%から、1年で約3倍になりました。(総務省「令和7年版 情報通信白書」)
ここまでは「導入したかどうか」の話です。
ところが、本当に注目すべきなのは次の数字だと考えています。
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「入れたのに、使えていない」という、
もう一つの現在地
生成AIの活用方針を策定できている企業は、
大企業で約56%、中小企業で約34%。(総務省「令和7年版 情報通信白書」)
つまり——導入した企業でも、半分近くが「方針がないまま使っている」。
現場で起きているのは、こういうことです。
- 一部の詳しい社員だけが使いこなし、大半は月に数回開くだけで終わっている
- 全社にツールは配られた。でも、何に使えばいいのかは各自に任されている
- 使ってはいるが、「これ、本当に合っているのか」を誰も確認していない
- 情報システム部門は「入れた」で終わり、現場は「で、何を?」で止まっている
研修の現場で管理職の方から最も多く聞くのは、実は「使い方が分からない」ではありません。
「入れたのに、誰も使っていないんです」
これがいちばん多い相談です。つまり、日本企業の課題は2つに分かれています。
1.まだ入れていない層
(中小の8割)
「何から始めればいいか分からない」
2.入れたが方針がない層
(大企業の約4割、中小の約7割)
「入れたのに動かない」
この2つは、まったく違う問題に見えて、実は同じ一点でつまずいています。
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「何から始めればいいか」の答えが、
なぜ出ないのか
「まず何から始めればいいですか」と聞かれたとき、多くの答えはこうです。
- まずはChatGPTを触ってみましょう
- プロンプトの書き方を学びましょう
- 便利な使い方を100個集めた資料があります
どれも間違いではありません。ただ、この順番で始めた組織は、かなりの確率で元に戻ります。
研修で学んでも、職場に戻ると元通りになる
これは生成AIに限った話ではありません。コミュニケーション研修で傾聴や質問の大切さを学んでも、職場に戻れば元の指示・管理型の関わりに戻ってしまう——1on1研修でよく指摘される現象と、まったく同じ構造がここにあります。
生成AIの場合は、こうなります。
- 研修の当日は「面白い」「便利だ」となる
- 翌週、目の前の業務に戻る
- いつものやり方のほうが速いので、いつものやり方でやる
- 3ヶ月後、ツールのアカウントだけが残る
なぜそうなるのか
理由はシンプルで、「自分の仕事のどこに使えばいいか」が決まっていないからです。
ツールの使い方は分かった。プロンプトの型も習った。
でも、月曜の朝、自分の目の前にある仕事のどれをAIに渡すのか——ここが決まっていない。だから渡さない。だから使わない。
使い方を教えても、使い所を決めていなければ、現場は動きません。
そして「使い所を決める」という作業は、ツールの知識ではなく、自分の仕事を分解する作業です。ここが、多くの生成AI研修が触れていない部分です。
現場の数字を、ひとつだけ
最近担当した企業研修で、事前アンケートを取りました(事務系部門・約50名)。約6割がすでに生成AIを業務で使っていました。導入は済んでいる組織です。
ところが自由記述を読むと、使い方はほぼ一色でした。
「一度自身の伝えたいことを書き、それをAIにて添削、修正してもらっている」
「自分で作成したメールや報告書文章の校正に使用している」
つまり、「人が書いて、AIが直す」。全部自分で書いてから、仕上げだけAIに渡している。真面目な使い方ですが、これだと書く工程が丸ごと残るので、時間はほとんど短縮されません。「入れたのに楽にならない」の正体の一つが、これです。
研修でお伝えするのは、順番の逆転です。「AIが書いて、人が直す」。下書きをAIに任せ、人は確認と判断に回る。同じ品質で、かかる時間が目に見えて変わります。ツールは同じでも、順番を変えるだけで景色が変わる——これが「使い所を決める」ということの、いちばん分かりやすい例です。
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仕事を「入口・中間・出口」に分ける
私が研修で最初にお伝えしているのは、この分け方です。
どんな仕事も、3つの層に分けられます。


「真ん中だけが移る。入口と出口は、人に残る」
たとえば「取引先へ提案書を出す」という仕事なら、こうなります。
- 入口=誰に、何のために、どこまで踏み込んだ提案をするのか決める
- 中間=過去資料を集める、構成を組む、たたき台を書く、表現を整える、比較表を作る
- 出口=内容が正しいか確認し、出すかどうかを決め、責任を持って提出する
中間だけを見ると、実は仕事時間の大半がここに入っています。 そして、ここがそのままAIの守備範囲です。
この分け方が効く理由
「AIに仕事を奪われる/奪われない」という議論が長く続いてきました。しかし現場の実感としては、そういう話ではありません。
1つの仕事の中に3つの層があって、真ん中だけが移る。
だから、入口と出口に専門性を持っている人にとって、AIは脅威ではなく増幅装置になります。
ただし、逆説があります
中間が速くなると、入口の粗さが、そのまま出力の粗さになります。
これまでは、資料を作りながら考えを整理できました。手を動かす時間が、そのまま思考の時間だったからです。中間をAIに渡すと、その時間が消える。だから入口で何を決めておくかが、前より重要になります。
「AIを使えば楽になる」ではなく、「AIを使うと、人がやるべきことがはっきりする」というのが、現場で起きていることに近いと感じています。
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では、何をどこまで教えるのか——
3段階の設計
「入口・中間・出口」で言えば、研修で扱うのは主に”中間”の技術です。
そして、その中間をどこまで任せられるようになるかで、研修は3段階に分かれます。


「どの段階から入るかは、組織の現在地で決まる」
01
超入門編
——「怖さ」を下げ、まず触る
対象:これまで触ったことがない方、社内に導入されたばかりの組織
- 生成AIとは何か/検索とは何が違うのか
- 何が得意で、何が苦手か
- 何を入力してはいけないか(機密・個人情報・未公開情報)
- とにかく触ってみる時間
この段階で最も大事なのは、「うまく聞こうとしすぎない」ということです。
生成AIは、最初から完璧な質問をしなくても使えます。うまく聞ける人だけが使える道具ではありません。短く聞いてみる、返ってきた答えを見て聞き直す。この気軽さが最初の一歩になります。
そして——AIは何度聞いても怒りません。 同じことを聞き直しても、初歩的な質問をしても大丈夫です。24時間、いつでも相談できる相手がいる。この感覚を持ってもらうだけで、超入門編の目的はほぼ達成されます。
02
基本編
——業務で使う「型」に落とす
対象:触ったことはあるが、業務で使えていない方
- 自分の業務を入口・中間・出口に分ける
- 指示の型(目的/前提/制約/出力形式/評価基準)
- 1回で終わらせず、対話で出力を育てる
- 出力を確認する観点——数字、日付、固有名詞、社内ルール
ここでお伝えしている勘所が2つあります。
1つ目は、「やってほしくないこと」も伝えること。
人に仕事を頼むとき、私たちは普通「やらないでほしいこと」まで細かく言いません。角が立つからです。ところがAIには言えます。「専門用語は使わない」「長くしすぎない」「断定しすぎない」——やってほしくないことを書くだけで、出力は目に見えて変わります。
2つ目は、わがままを言えること。
文字数、読み手、トーン、形式、比較の軸。人に頼むと「細かすぎる」と思われそうな条件でも、AIには遠慮なく指定できます。制約を厳しく入れるほど、実務で使えるものが返ってきます。
03
応用編
——判断材料をつくる、職場に広げる
対象:チームや部門でAI活用を進める立場の方
- AIに判断させるのではなく、判断材料を作らせる
- 反対意見・リスク・別案を出させて、検討の質を上げる
- 失敗を先に出させる——実行する前に、うまくいかない理由をAIに挙げさせて、先に手を打つ(具体的な問いかけの型は、研修の中でお渡ししています)
- 職場への展開、ルールづくり、若手の育成
応用編で特にお伝えしているのは、AIの本当の強みは「試行回数」だということです。
企画案、比較軸、リスク、別案、反対意見。
これまで時間の制約で1案しか出せなかったところに、短時間で複数の選択肢を並べられる。
選ぶのは人ですが、選択肢の数は増やせます。
06
そして、ここからが管理職の話です
3段階を通しても、実は解けない問題が1つ残ります。
「入口と出口は、誰が握るのか」
AIへの丸投げは、部下への丸投げと同じ
私は企業研修の講師を14年やっていて、そのうち相当な時間を管理職研修に使ってきました。
生成AIが登場するずっと前から、教壇で繰り返し言ってきたことがあります。
「作業だけ振るのはあかん。全体像を示さないと」
これは部下への指示の話でした。ところがいま、まったく同じことが、AIに対して起きています。
AIは、優秀だけれど、文脈を知らない新入社員のようなものです。
- 優秀だが、あなたの会社の事情を知らない
- 前回の会話を覚えていない
- 空気を読まない
- そして、分からなくても「できました」と言ってくる
この4つは、そのまま新人の特徴でもあります。だからこそ、AIをうまく使えるかどうかは、操作の巧拙ではなく、任せ方の巧拙になります。
セルフチェックの問い
研修でお出しする問いがあります。
「その指示を、今日入社した超優秀な新入社員に言ったら、
期待どおりに動けますか?」
動けないなら、AIも動けません。逆に、部下にきちんと指示を出せる人は、AIにもきちんと指示が出せます。
つまり、AI活用力は、かなりの部分がマネジメント力です
ここで、1on1やコーチングの話とつながります。
AIによる情報整理や案出しが一般化するほど、上司の役割は「業務の指示や知識の伝達」から、「目的を決めること」「対話で成長を支援すること」「最終的に判断し、責任を持つこと」へ移っていきます。
中間工程が速くなった分、人は入口と出口に時間を使える。 そこにこそ、管理職の価値が集中していきます。
そして——ここは強調しておきたいのですが——この力は、いま最も鍛えやすい時期にあります。 従来、マネジメントは「部下を持って初めて練習できるもの」でした。いまは全員が、指示を出す相手を持っています。何度失敗しても、文句を言わない相手です。
07
現場で必ず出る質問と、その場でのお答え
研修を重ねる中で、業種や階層を問わず、ほぼ必ず出る質問があります。実際にお答えしている内容とあわせてご紹介します。
Q1.「間違った情報が出てくるのが怖いのですが」
正しい感覚です。生成AIは、正しそうな見た目で間違えます。だからこそ、自分が詳しい分野から使い始めるのが安全です。詳しい分野なら、間違いに気づけます。
⚠️注意が必要なのは、むしろ若手の方です。経験がないぶん、出力の違和感に気づきにくい。AIを使わせるときは、確認の観点をセットで教える必要があります。
Q2.「うちの会社の情報を入れても大丈夫ですか」
社内ルールがある場合は、必ずそちらが優先です。 そのうえで実務的な判断基準をお伝えするなら、「これは社外の人に見せられるか」で切るのが分かりやすいと思います。
そして多くの場合、置き換えれば済みます。取引先名をA社に、数字をダミーに。それで大半の相談は成立します。
Q3.「結局、仕事は減るんでしょうか」
減るのは、おそらく雑務です。ただしここには、あまり語られていない副作用があります。これまで新人は、雑務を通じて社内の流れや仕事の全体像を学んでいました。 それがなくなったとき、何で代替するのか。育成の設計としては、ここが新しい論点になります。
Q4.「うまく指示が出せません。コツはありますか」
事前アンケートで、ある50代の課長職の方がこう書いてくださったことがあります。
「自分のAIに対する指示が悪いと思うのだが、指示の仕方が解っていない。指示の出し方のコツや、こちら側の思考の方法を教えてほしい」
「こちら側の思考の方法」——この言葉が、本質を突いています。必要なのはプロンプトの暗記ではなく、AIに渡す前に自分の頭の中をどう分解するかです。
そのうえでのコツは、一発でうまく書こうとしないこと。1回投げて、ズレを言葉にして、直す。この往復が本体です。
そしてズレを言葉にする作業そのものが、自分の要件定義になっています。 「もっと短く」「もっと具体的に」「立場を変えて」——この言い換えができる人は、部下への指示も的確です。
Q5.「どのツールを使えばいいですか」
よく聞かれますが、ここは実はいちばん重要度が低い質問です。ツールに詳しくなること自体は、成果につながりません。
大事なのは、入力する情報の扱い方、出力の確認の仕方、そして現場での使い所です。どのツールでも共通して効くのはそこで、研修でお伝えしているのもそこです。
08
研修の設計について
ご相談をいただく際、私たちが最初に確認しているのは「どのコースにするか」ではありません。
いま、その組織がどこにいるかです。
- まだ導入していないのか、導入したが動いていないのか
- 現場は何に時間を取られているのか
- 管理職はAIをどう見ているのか
- 過去に何かを導入して、うまくいかなかった経験はあるか
ここが分かると、超入門から入るのか、基本編から入るのか、あるいは管理職層から着手するのかが決まります。逆にここを飛ばすと、内容の良し悪しに関わらず、現場が動きません。
なぜ現在地の確認にこだわるのか。事前アンケートに、こんな声が届いたことがあるからです。
「AI研修をいくつか受けたが、会社で使っているAIでは同じことができなかった。自社のAIでできることを知りたい」
一般論の研修は、受けた日は面白くても、自社の環境に持ち帰れなければ使えません。社内でどのAIが使えて、何が制限されているのか。そこまで踏まえて初めて、「翌週の月曜に使える研修」になります。
研修は、受けた日に満足して終わるものではなく、翌週の月曜に何かが変わって初めて意味があります。 そのために、事前のヒアリングと、実施後の振り返りの機会を組み込むことをお勧めしています。
まずは、現在地を確認するところから
「何から始めればいいか分からない」という段階でのご相談を、いちばん多くいただきます。
そこで、研修のご依頼の前に、まず自社の現在地を整理していただくための簡易チェックをご用意しています。
- 導入状況、活用の実態、現場の困りごと
- 管理職層の温度感
- どの階層から着手するのが効果的か
内容が固まっていない段階でのご相談で構いません。
「うちはまだ早いのでは」という状態からのほうが、むしろ設計しやすいこともあります。
